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パン屋の働き方改革、たったひとつのシンプルな方法

富士山溶岩窯で焼いたカンパーニュ

まだまだ実験中ではありますが、「石窯パンハル」は、働き方改革にかなり真剣に取り組んでいます。「働き方改革」というと大げさだと感じるくらい、その方法はシンプルなもの。私たちはこれで、やっと子どもの保育参観や運動会に参加できるようになりました! 働き方改革のきっかけと、改革の流れをご紹介します。

「石窯パンハル」ホームページはこちらです!
https://ishigamapan-haru.com/

目次

パン屋は長時間労働が当たり前?

2012年に東京から移住&オープン

私たちは、東日本大震災後の2012年、ここ長野県上田市に移住しました。実は移住先は震災前から探していて、あちこち出かけた中で、上田がぴったりくるなと感じたのです。最初は、東京でのカフェ時代に人気だったベーグルを長野県産の素材で作る、ベーグル専門店「ベーグル屋ハル」としてオープンしました。

「田舎のパン屋」の理想と現実

ベーグルは、東京では専門店も数多くあるほど人気のあるパンです。けれども、人口が少ない地方都市(上田市の人口は、令和2年1月現在で約15万6千人)では、「ベーグルって何?」という人も案外多かったり、「もっと柔らかいパンは無いの?」と言われることも多く、お客様の声にお応えする形で、徐々に菓子パンや総菜パンなどのラインナップを増やしていきました。

「パン屋平均値」と思っていた労働時間

上田市に来てから、ふたりの子どもにも恵まれましたが、産休はそれぞれ1か月! 出産前日まで働いて、産後1か月後にはもう復帰していました。

朝4時ごろには店に来て、多いときは10種類以上あったベーグルやクリームパン、メロンパンなどを成型。焼きあげて販売しながら翌日の仕込みをし、クリームやメロンパンのクッキー生地の仕込みなどをしていると、保育園のお迎え時間が迫り、間に合わず延長保育してもらうこともしばしば。下の子がまだ0歳のときは、おんぶしながらのパン作りも当たり前でした。

その頃の労働時間は、平日で12時間くらい。イベント出店などで沢山パンを焼かなければいけないときは、15~16時間労働なんていう日もありましたが、「パン屋ってこんなものでしょう」と思っていたのです。

「捨てないパン屋」との出会い&「真似」のはじまり

何度も読み込んだ「捨てないパン屋」は、付箋でいっぱいです。

2018年、年末に転機は訪れました。広島のパン屋、ブーランジュリードリアン田村陽至さんの著書「捨てないパン屋」との出会いです。年末年始に夫婦でこの本を読み、すっかり共感して、年明けからドリアンさんの真似をしながら、徐々に店を変えていくことにしたのです。

菓子パンやめました

2018年まで作っていた、豆乳クリームパンやコーンパンなどなど

まずやめたのは「菓子パン」。「少量多品種の品ぞろえが良い」「パンは小さい方が人気」なんていう、雑誌などの言葉に踊らされ、多品種化、小振りサイズ化をすすめた結果、菓子パンにかける労力と時間が半端じゃないことに気が付き、2019年年明けからスッパリやめてしまいました。

結果、クリームなどを仕込む時間が削減できたとともに、こまごまとした仕入れも整理でき、今までさまざまな食材を収納していた引き出しや冷蔵庫内なども、スッキリしてきました。

種類豊富をウリにするのをやめました

ベーグルも、2018年までは「10種類以上あります!」なんて言っていて、種類ごとに生地を仕込んでいたので、生地のこねあげにかかる時間も長かったのですが、それもどんどん減らしていきました。

広島研修旅行

「捨てないパン屋」田村さんは、研修や見学の受け入れもされています。それを知って私たちもぜひ、パン作りの現場を見せて頂きたいと思い、子連れで広島まで行きました。2019年5月のことです。

目からウロコの見学体験

巨大な薪窯の前の田村さん

見学は朝の4時から。なんと、宿泊していたゲストハウスまで田村さん自ら迎えに来てくださいました。カンパーニュが100個も1度に焼けるほどの大きさの手作りの薪窯で、昔ながらの自家培養発酵種を使ったパンを焼きます。

焼きあげるパンは、4種類だけ。作業は徹底的に効率化され、仕入れも最低限の種類に絞り込まれ(ただし、品質は最高のもの)、厨房には余計なものが一切ありません。

薪を焚いて窯を温めながら、翌日の生地の仕込みをし、窯が温まったら前日から寝かせて置いた生地をどんどん入れて、その間に皆で朝食をとり(なんと、母上の手作り!)、生地の分割&成型をし、焼き上がったパンを窯から取り出して後片付けをして終了。作業の流れも、また田村さんの身体の動きにも、一切の無駄がなく流れるようにパン作りが進んでいきます。

「こんなに沢山のパンを焼いているのに、こんなに短時間で、しかも出来上がったパンは最高においしい!!!」 自分達ももっとパンの本質を見極めて、田村さんのパンのような「本物のパン」を作るべきだと強く思ったのです。

パンは大きく焼いた方がおいしい

ドリアンさんにて。粗熱をとったパンをワイン箱に詰めている途中の写真

田村さんのパンの大きさにも驚きました。最大のものは2キロのカンパーニュ。両手で抱えるほどの大きさです。これが、もの凄くおいしい。焼き込まれた皮の香ばしさ、中のクラムのみずみずしさ。大きいパンの底力を感じました。

薪窯にするべきか、それが問題だ!

ドリアンさん見学を経て、伝統製法の「自家培養発酵種」を使ったパン作りをすることが、まずは最重要、と私たちは考えました。発酵種は、パンの勉強のために数年前に起こしていろいろなパンに使ってきたので、そのときすでに安定した良い状態にありましたが、酸味のあるパンが苦手なお客様も多いことや、発酵種の良さを充分に知らなかったことから「これだけでいこう」と、思い切れていなかったのです。

次に重要なのは「薪窯」ですが、すでに店舗を持ち営業している身でしたし、店舗には巨大な薪窯を設置するほどのスペースは無く、薪置き場のスペースもありません。一時は移転も考え、薪窯作りの講習会に参加したりもして検討しましたが、薪窯にするのは難しいのではと思い始めました。

富士山溶岩窯との出会い

横浜の櫛沢電機さんで作られた富士山溶岩窯

鼻歌まじりで楽しく作られた窯

2019年のテストベイクで焼いたパンたち

そんな時、「富士山溶岩窯」の存在を知りました。なんと、近くの尊敬する大先輩パン屋「ルヴァン」さんでも、長年使われている窯だというではありませんか! ルヴァンさんは、自家培養発酵種のみで30年以上も営業を続けてこられ、そのパンのしっかりと焼き込まれた皮の香ばしさには、窯の実力が表れています。窯の製造元の櫛沢電機さんに連絡すると、すぐに来てくれてハルの厨房を見てくださり、当時置いてあったコンベクションオーブン2台の場所に、設置可能ということが判明。そこから一気に計画が動き出しました。

テストベイクのため、パン生地を発泡スチロールの容器に詰めて保冷しながら(2019年夏)横浜の櫛沢電機さん本社へも伺いました。そこでは、納品間近という巨大なオーブンの組み立ての真っ最中でしたが、何とも楽しげに、鼻歌まじりで作業が進められていました。

その様子を見て「自分が組み立てた薪窯でなくても、こんなに楽しく作られた窯なら、一生のパートナーにできる!」と、温かい気持ちになりました。

夢のようなルヴァンさん研修

上田市の柳町にあるルヴァンさん

石窯設置のためには、厨房を広くする必要があり、そのための工事と石窯の搬入を10月に行いました。「同じ窯を使うなら、うちに研修に来ませんか?」と、ルヴァン店長さんに声をかけて頂き、社長の甲田さんにも「お世話になります」とご挨拶すると「たくさん盗んで行ってくださいよ」と大らかに言われました。さすがルヴァンさん! ドリアンさんにしてもルヴァンさんにしても、同業者に惜しげなく見せてくださる。その姿勢はとてもカッコいいのです。

ルヴァンさん研修のことも、語ればきりがないのですが…。憧れの厨房に入らせて頂いて、石窯の扱いのコツも沢山学ばせて頂きました!

リニューアルして変わったこと

ショーケースも新しくし、リニューアルした直後、2019年10月

いちばん好きなパンを焼く

石窯を導入し、やっと、念願の「自家培養発酵種」によるカンパーニュが焼けるようになりました。よいカンパーニュが焼ける窯の条件として、
①庫内が高温になる(ハルのカンパーニュは260℃前後で焼成)
②庫内を蒸気で満たすことができる(熱風が出る、それまでのコンベクションオーブンと違い、蒸気によって表面が焼き固まらないため、きれいなクープ(パンの切れ目)が開く)。
という2点が挙げられます。

一度に焼けるパンの量も増え、焼きあげの時間が短縮できました。また、成型や焼きあげに時間を取られないため、焼きあげながら翌日の生地の仕込みも並行して行えるようになりました。

最高の材料でパンを焼く

地元の小麦農家さんの畑にて

それまでにも、地元のビオ小麦粉を10~20%、すべてのパンに使用してきましたが、一番力を入れているカンパーニュにはビオ粉を50%使うことにしました。ドリアンさんでは、主に北海道産のビオ粉を100%使われています。北海道産の粉にも手を伸ばせば、100%ビオ粉、というのも可能かな、と一度は考えましたが、せっかく小麦のとれる長野県。自然栽培や無農薬の農家さんとも、幸せなことに出会えている。それならばじわじわとビオ粉の比率を上げていくことを目標にしたい、と思いました。

「今日は何しようかな」という時間の大切さ

通い詰めている上田城跡公園と子どもたち

一度に多くのパンを焼けるようになり、焼成と仕込みを並行して行えるようになり、一日に販売するパンが、5時~11時の6時間で、ひとりで作れるようになりました。ハルでは、私がパン作り担当、夫が販売担当なので、11時前後でバトンタッチして、このようにブログを書いたり、発酵の勉強をしたり、ちょっと自家菜園の様子を見てきたり…「今日は何をしようかな」という時間ができました。

子どもたちと関わる時間も増え、公園にもたっぷり通えるように。地元のお店にももっと通いたいし、いろんな人との交流の機会も増やしていきたいと思っています。それがまた、いいパン作り、店づくりに繋がって行くと思います。

これからのパン屋

パン屋の働き方改革、たったひとつのシンプルな方法

こうして、ハルが実践してきたことを振り返ってみると、パン屋が働き方改革をしたいと思ったら、「パンの種類を減らして質を上げる」ことに尽きると思うのです。パンの種類は、ドリアンさんやハルみたいにカンパーニュやハード系に限らないかもしれません。「うちはデニッシュだけを極める!」とか、いろんな人がいたら面白いと思います。

100年後のパン

パンが入ってきて、みんなに食べられるようになってきてから、まだ日が浅い日本。そんな日本に暮らしながら、ドリアンさんやルヴァンさんのお陰で、ヨーロッパの伝統製法のパンの良さに気付くことができました。
100年後まで残るパンはどんなパンだろう? そんな長い目でみたパン作りを、これからもしていきたいと思っています。

ハルの自家培養発酵種使用&富士山溶岩窯焼成のカンパーニュご注文はこちらからどうぞ!
https://vegan.bagelya-haru.shop/

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