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「天然酵母」と「イースト」の違いは何?

ハルの自家培養発酵種で作ったカンパーニュ・ベーグル・スコーン

店でパンを販売していて、「これって天然酵母パンですか?」というご質問を、よく受けます。でも、実は「天然酵母」=「イースト」だってこと、ご存知でしたか? みんな知っているようで、実はよく知らない「天然酵母」のこと。自家培養発酵種を使うパン屋の目線で解説します!

自家培養発酵種で作るカンパーニュなどは、こちらからご注文いただけます。
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目次

「天然酵母」=「イースト」である?!

「天然酵母」と「イースト」って、対立図式であると思われている方は、多いと思います。
しかしながら、酵母は英語でイースト(Yeast)なのです。「酵母=イースト」である。ということを、まず頭に入れておきまして…。
次に「天然」という言葉はどうかと考えてみます。酵母は微生物であり、人間は未だ酵母を製造したことはなく、「人工」の酵母は存在しないことから、「天然」対「人工」という図式も成り立ちません。なので、「イースト」は、人の手により純粋培養されてはいますが、あくまでも元は「天然」であり、「天然酵母」と言えてしまうのです!

また、似たような言い方で「自家製酵母」というものもありますが、これも、酵母は「自家製」できないという理由から、厳密な表現ではないといえます。

ただ、19世紀半ばから、酵母の分離培養が可能になり、製パン適性が高いパン酵母を自然界から分離して純粋培養したり、酵母菌株を人為的に掛け合わせて改良も行われています。

清酒酵母と対比させるとわかりやすい、パン酵母。

ハルの自家培養発酵種。1g中に酵母1千万個、乳酸菌6億個が生きています。

「酵母」を「イースト」と表現しているのは、パン業界だけだと言われています。たとえば、日本酒作りで使われる酵母は「清酒酵母」と総称され、その中で「きょうかい酵母」「自治体酵母」「蔵付き酵母」「野生酵母」「花酵母」などと分類されています。さらに、分類された中にさまざまな種類の酵母があります。

同じように、パンに使われる酵母も、いかにも人工的なイメージを与える「イースト」よりも「パン酵母」と表現した方がよいのでは、と言われ、成分表示なども書き換えられつつあります。

「パン酵母」のいろいろ。

日本酒作りで使われる酵母と同じように、パン作りでもいろいろな酵母が使われます。私の手元にも、フランス、ルサッフル社のインスタントドライイースト、ホシノ丹沢酵母パン種、白神こだま酵母ドライ、などがあります。

それぞれ培養方法や採取された場所などが違い、特徴はありますが、どれも「パン酵母」という意味では並列であるといえます。

つまり、「清酒酵母」の中に「きょうかい酵母」「自治体酵母」…などと種類があるのと同じように、「パン酵母」の中に「インスタントドライイースト」や「ホシノ酵母」「白神こだま酵母」などがある、というイメージです。

清酒酵母もパン酵母もビール酵母もワイン酵母も、Saccharomyces cerevisiae(サッカロマイセス・セレビシエ)。

ちなみに、清酒酵母もパン酵母もビール酵母もワイン酵母も、数ある酵母の中でSaccharomyces cerevisiae(サッカロマイセス・セレビシエ)に分類されます。

筑波大学山岳科学センター・菌学研究室で、ハルの自家培養発酵種を調べてもらったところ、遺伝子解析により、やはりサッカロマイセス・セレビシエが存在することがわかりました。

上に添付したハルの発酵種に含まれる酵母と、その他の酵母を並べた顕微鏡写真もご覧ください。随分形が違うようですが…! サッカロマイセス・セレビシエという酵母の種類の中で「種内変異」というものが起こり、自然界でも、また人為的にも掛け合わされて性質が変わることがあるのだそうです。

ちなみにハルの発酵種に含まれる酵母は、オーガニックのレーズンについていたものです。きれいな丸い形であるのは「原種に近いのでは」ということでした。

酵母による発酵は「アルコール発酵」。

では、パン酵母は、パン生地の中でどんな働きをしているのでしょうか。それはやはり日本酒作りなどと同じく「アルコール発酵」。つまり、パン生地の中の糖を食べて、アルコールと二酸化炭素に分解しているのです。

酵母が出した二酸化炭素によってパン生地がふくらみ、アルコールは焼成時に気化して、焼き上がったパン生地に残ることはほとんどありません。

「天然酵母」の代わりに「自家培養発酵種」または「サワードゥ」と呼びたい

無農薬のレーズンの表面には、酵母がいます。

昔ながらのパン作りは「自家培養発酵種」で

4400年もの歴史を持つと言われるパン作り。酵母の分離培養がされる前は、パンはどのように作られていたのでしょうか。

その方法は、果実や穀物に付着している酵母を、果汁や小麦粉生地、ライ麦粉生地などで培養を繰り返し、製パンが可能な二酸化炭素発生力を持ったパン種を作り、それをもとにしてパンを作るというものです。

日本ではこのような伝統製法のパンを、「天然酵母パン」と、呼び習わしてきたことも事実ですが、そろそろ「天然酵母」という呼び方から離れて、より正確な呼び方をした方が良さそうです。

酵母の採取からパン種を完成させ、継ぎ足して維持するところまで、すべての工程をベーカリー独自で行っている場合、「自家培養発酵種」と表現するのが良いとされています。欧米では「自家培養発酵種」を「サワードゥ」と呼ぶそうなので、それも良いかなと思います。

「種起こし」の意味と、「自家培養発酵種」ができるまで

毎日、発酵種に粉と塩と水を足してかけ継ぎます。

「酵母を起こす」「パン種を起こす」という表現も、パン作りではよく使われます。その意味するところはと言いますと、つまりはパン酵母の採取と培養です。

「自家培養発酵種」を作るためには、最低2週間ほどかかります。ハルの発酵種はレーズンから起こしましたが、レーズンを水に浸して、プクプクと気泡が上がり、レーズン表皮についていた酵母が増え始めるまで約1週間。レーズンを濾して酵母液を取り、そこに小麦粉を継ぎ足して酵母の数を増やしていく過程でまた1週間かかりました。

さらに、日々小麦粉を足して使い続け、現在4~5年目。今ではすっかり酵母と乳酸菌の数がバランスよく増え、安定したパン種となっています。

「乳酸菌」に注目せよ!!

自家培養発酵種のパンの酸味は、乳酸菌によるものです。

ここでやっと「乳酸菌」という言葉が出てきましたね! 実は「自家培養発酵種」には、酵母よりもずっと多い数の乳酸菌が存在しています。ハルのパン種1g中に、約1千万個の酵母と約6億個の乳酸菌がいることがわかっていますが、欧米のサワードゥにも、一般に酵母の約10倍の乳酸菌がいると言われています。

「自家培養発酵種」では、パンをふくらませるための「酵母によるアルコール発酵」が、もちろん重要ですが、実は乳酸菌による発酵は、それ以上に意味があることなのではないか…! と思っています。

「自家培養発酵種」に含まれる「乳酸菌」の働きについては、次回詳しくまとめたいと思います!

ちなみに、天然酵母、イースト、自家培養発酵種などの用語に関しては、社団法人 日本パン技術研究所による「天然酵母表示問題に関する見解」を、参考にさせて頂きました。

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